癖毛を肯定することも否定することもあなた次第です

今晩は。
ヘアデザイナーの空(くう)です。
今日のテーマは癖毛についてです。
こちらのお客さは先日カットに来られた方で、癖毛について相談を受けました。

上図の左側は来店した時の写真でビフォーです。
右はカットカラー終了後に手ぐしでざっと乾かしただけのヘアスタイルです。
この時の相談内容は、癖毛で広がりやすいのでトップを短くカットして欲しいのですが、他店でそのように注文しても・・・
「癖毛で広がりやすいからトップの髪を短くするのはやめたほうが良いです。」
というアドバイスが多く、どうしてもカットしてもらえないので美容室を変えたということでした。
美容師がそういうアドバイスをするのもわかる気がします。
トップを長くして抑えていくと広がりにくと考えるからです。
またいざとなれば、結んで広がりを抑えることも出来ます。
無難に対処するならトップは長いほうが良いかもしれません。
しかしカウンセリングで最初にお客様が口にする言葉には、美容師が受け取っている以上に大きな意味があります。

つまり美容室を変えた理由や、新しい美容室行くことになった来店動機である場合が多いからです。
続けて注意深く話を聞いていくと、過去にトップを短くして評判が良かったこともあったらしく、その担当の美容師は現在は美容師を辞めてしまったとか。
過去に成功体験があったということで、私も安心してトップを短く切る方向でヘアスタイルを決めました。
次に、本題となるご本人の癖毛がどの程度のものか?
癖を否定的に考えている方のほとんどは、ブローやアイロンで癖を伸ばしていますので、来店時の髪型では癖の強弱や毛流れなど見えなくなっています。
そして初めての美容室なので緊張感もピークに達していると想像しますので、リラックスして頂くことと、癖毛の状態を見極めたいという2つの理由でリラクゼーションシャンプーをします。
シャンプー剤はシリコン除去剤を使用し、手触りを良くするために多くのメーカーが使用している、シリコン・シリル・ジメチコン・ポリビニール系の皮膜剤・樹脂系の皮膜剤など全てを一旦除去します。
クレンジングでメークを落とすようなもので、皮膜を全て取り除いて素髪の状態を見たいので一度全てリセットして本当の素髪のコンディションを毛髪診断します。
巷で流行っているノンシリコン系のシャンプーやトリートメントの表示指定成分を見てみてください。
シリコンという名称は皮膜系の物質のごく一部の名称です。
同じ皮膜系の役割を果たすものにジメチコンやポリと名のつく化学物質があります。
どうして皮膜系の物質が髪に良くないのでしょうか?

それはキューティクルの表面をビニールの膜で覆うと、シャンプーの度にビニールの膜とキューティクルが一緒に剥がれ落ちる可能性があるからです。
キューティクルが破損するからまた皮膜で覆うという悪循環から逃れられなくなります。
ビニールの膜があることで、流出したタンパク質を毛髪内部に戻すトリートメントも出来なくなってしまいます。
さらにキューティクルは一旦剥がれてしまうと、爪と同じように再生しません。
爪を傷めたことがある方はわかると思いますが、爪を一度傷つけてしまうと生え変わるまで再生しませんよね?
それと同じでキューティクルも擬似キューティクルなど存在しません。
あるのはビニール系や樹脂系の皮膜剤だけです。
キューティクルも爪もケラチンタンパク質で出来ており、髪のキューティクルは1000分の5ミリほどの薄い鱗状のものです。

話を戻しますが、癖毛が広がる原因の一つに髪のダメージがあります。
上図のように白髪染めを繰り返している髪は、カラー剤のアルカリ成分でキューティクルの弛みが酷くなっており、天然の保湿成分であるコルテックスがシャンプーの度にお風呂場で流出しています。
天然の保湿成分であるタンパク質がご自宅での毎回のシャンプーで平均的に0.03%ずつ失われているのです。
そして美容室でカラーをすると平均的に0.6%のタンパク質が流出します。

癖毛の広がりを抑えるためには、アルカリカラーを一度止めて、ノンアルカリ・ノンブリーチ・ノンオキシドールのカラー剤を使用していくことが望ましいと思います。
カラーリング後に二週間程度で毛先が次第に明るくなる場合は上記で説明したカラーによるタンパク質の流出が原因です。
毛髪内部のタンパク質には天然のメラニン色素や人工的に白髪染めやオシャレ染に含まれているジアミンという人工色素などが絡み合っています。
色素が毛髪内部に残留できる条件として、毛髪内部に色素とひっつくことが可能なタンパク質の存在があることです。
もし繰り返しのカラーリングでキューティクルが開いたままの状態であれば、毛髪内部にはタンパク質がほとんど無い状態となります。
癖毛が広がる原因の一つに、タンパク欠損毛が挙げられます。
保湿分を失った毛髪の先端部付近はフライヘアーという髪質になっており、ふわっと異常な広がりが起きてしまいます。
フライヘアーとは文字通り飛んでいくように軽い毛髪という意味です。
癖毛をまとまり良くするための条件としてこのようにご自身の持っているタンパク質をご自宅でのシャンプーや美容室でのカラーリングで流出させないことが大事になってきます。
こうしたベースとなるヘアケアが揃って初めて、カットによる癖毛を生かすヘアデザインが可能となります。
いくら癖毛を上手にカットしたとしても、タンパク質の欠損した毛髪では収まるものも収まりません。
髪を健康な状態に戻して行きながら、癖の状態を良く観察してカットすることが大事です。
カットがうまく行ったかどうかを見極めるには美容師がブラシでブローをしないことです。
カット終了後に、カラーをしてシャンプーして、手ぐしでざっと乾かした状態を見て、癖毛が収まっていればまずまずのカットの出来だと思います。
私自身、このようなプロセスでお客様の話を良く聞いて、注意深く毛髪診断をして、シャンプー後に乾かして癖の状態を観察して、初めてハサミを入れます。
癖毛のまとまりを良くする方法は他にも様々にありますが今回はその一部をご紹介しました。
タイトルにあるように、お客様自身が自分の癖を生かせるものなら生かしたいという要望があり、それを聞いた美容師はどうしたら癖が収まり良くなるのか?
シャンプー剤やカラー剤やドライヤーの使い方、そしてカットの方法やヘアデザインに至るまでトータル的に判断をして、アドバイスできることが望ましいのでは無いかと思います。

最後にこういった個性的な癖毛を持った方とヘアデザインについて話すときに、ヘアカタログやスタイルブックを見ないことも付け加えておきたいと思います。
ヘアスタイルブックなどに出てくるモデルの髪型を見ながらヘアデザインを話し合うことはかえって出来上がりとのギャップを生む原因になります。
お客様もスタイルブックのモデルのような髪型になると期待してしまいますし、ご本人の毛流や毛髪のコンディションや癖毛の強弱などお客様の持つオリジナルな情報を見逃してしまうからです。
癖毛やそれに伴うお客様の悩みに真正面から向き合うためには、スタイルブックなどを参考にしないで、話し合う必要があるように思います。
髪のことでお困りごとなどございましたら遠慮なくご相談ください。